あれは20年間勤めた会社から独立して、事務所を立ち上げた時のことでした。
内装を整え、家具なども一式運びましたが何か物足りません。
そしてふと前の会社には、ピカソの絵画がたくさん飾られていたことに気が付いたのです。
そんなことを考えていると、前の会社の社長が訪ねてきました。
独立祝いにわざわざ来てくださったのです。
なんとお祝いの品として手渡されたのはピカソの絵画でした。
「この部屋では寂しいだろう」
「どうしてわかったんですか?」
「あはは、長い付き合いだからな。君にはピカソが必要だ」
その言葉にとても感動したのを今でも覚えています。
確かに、泣いた日も笑った日もピカソの絵画を毎日見て仕事をしてきたのですから。
だからでしょうか、私の事務所から独立したいと旅立つ息子にも絵画を贈ろうと思ったのです。
私はまだまだ社長には敵いませんが、あの感動を彼にも味あわせてあげたい。
いやあの感動を彼の次の代にも伝えてもらいたい、勝手かもしれませんがそう思っています。